2009年02月21日

美達大和

 
 中森です。
 今週、江東区で起こった猟奇的殺人事件の判決が言い渡された。裁判官が言い渡した無期懲役の判決に妥当性はあるか、報道は量刑の相当性について関心は向けられていた。被告が一人の女性を殺めただけではなく、死体の遺棄方法のあまりの残虐性に親族の感情を考えた場合、死刑が妥当であるという考えが支持されていたため、無期懲役の判決には賛否が分かれた。無期では20年最近では30年程度で仮釈放になる。被告が社会に出ることを想像した場合、母親はこのことを許せるのであろうか。被告の死刑を回避して被告が被害者の冥福を被告が祈りつづけることに、規範の対象性は存在し社会の秩序は保たれるのだろうか。せめてもの良心が被告にあるのなら、素直に反省している姿を見せずに極悪非道の犯人を演じ切り本人が希望しているらしい、死んでお詫びをするという本懐に帰することも一つの方法かもしれない。

 しかし被告の精神は正常に保たれているかという問には疑問を投げかけざるを得ない。遺体を処分するために切り刻み骨を煮込み柔らかくし脳みそはトイレに流すなどということが正常な精神状態で行うことが可能なのかと疑問が湧く。しかしそれだと精神病者は罪に問われない刑法の条文に、遺族は納得できないだろう。刑法の考えでは精神病者は、刑務所に入れても更生されることはないとされている。刑罰とは人を更生するために行われる行為であるからして、被告の罪を量刑を持って更生させるには刑務所で時間を有するとの考えで刑が言い渡されるからである。

 刑法39条 『 1.心神喪失者の行為は、罰しない。2.心神耗弱者の行為は、その刑を減軽する。』
心神喪失とは、『精神の障害により事の是非善悪を弁識する能力(事理弁識能力)又はそれに従って行動する能力(行動制御能力)が失われた状態』で、民法上は禁治産宣告の対象となるらしい。心神耗弱というのは、『精神の障害により事の是非善悪を弁識する能力(事理弁識能力)又はそれに従って行動する能力(行動制御能力)が著しく減退している状態』で、民法上は純禁治産宣告の対象となる。

 フランスのパリで女性を殺害したS氏はパリ人肉事件として報道された。何故殺人事件ではなく人肉事件といわれた理由は、S氏が女性の肉を食べたことでこう呼ばれるこになる。Wikipediaには事件の概要はこう書かれている。
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 1977年にフランスに留学、パリ第3大学に在籍していたが、その最中の1981年6月11日、佐川は同大学のオランダ人女性留学生(当時25歳)を銃で殺害し、彼女の遺体と性交渉後、その肉を貪った(パリ人肉事件)。佐川は犯行を自供したが、精神鑑定の結果、心身喪失状態での犯行と判断され、不起訴処分となった。その後、アンリ・コラン精神病院に措置入院されたが、この最中にこの人肉事件の映画化の話が持ち上がる。佐川は劇作家の唐十郎に依頼するも、唐は佐川が望んでいなかった小説版「佐川君からの手紙」(『文藝』1982年11月号)で第88回芥川賞を受賞する。

 1984年に帰国。東京都立松沢病院に入院。松沢病院側の診断結果では、佐川は人肉食の性癖は持っておらず、フランス警察に対する欺瞞であったという結論であった。金子副院長は、佐川は精神病ではなく人格障害であり、刑事責任を問われるべきであり、フランスの病院は佐川が1歳の時に患った腸炎を脳炎と取り違えて、それで謝った判断を下したのではないかとコメントしている(Tokyo Journal1992年9月号)。日本警察も全く同様の考えであり、佐川を逮捕して再び裁判にかける方針であったが、フランス警察が不起訴処分になった者の捜査資料を引き渡す事はできないとして拒否した。

 15ヶ月後で退院し、マスコミに有名人として扱われ、小説家になったが、上記の通り日本の病院と警察がそろって刑事責任を追求すべきという方針であったのに、フランス警察の方針によりそれが不可能になった事から、社会的制裁を受けるべきだという世論が起きた(週刊マーダーケースブック2号)。両親もこの事件の結果、父親は会社を退職することなり、母親は神経症の病気を患ったという。
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E4%BD%90%E5%B7%9D%E4%B8%80%E6%94%BF
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 「人を殺すことはどういうことか」という本がある。新潮社の2009年1月の新刊なのだが、あまりどこの本屋でも置いてあるのを見かけない。たまたまある本屋で一冊だけあったので買うことにした。刑期が8年以上の者が収容される長期LB級刑務所に服役している、無期懲役の判決を受けた殺人犯の手記である。作者は実在する人物で、生い立ちから事件の内容、そして現在の心境までを一冊の本の中に綴っている。きわめて裕福な家庭の環境で育った。裕福さをもたらしているのは高利の貸し金業を営む父親の生業によるものであった。それゆえに家庭は殺伐としていたという。しかし彼はきわめて知能が高かったらしく学校ではトップの成績を持続し続けた。これは文章の端々でその片鱗が見受けられる。文体や語彙の選び方に極めて高度な知性を感じる。それだけに戦慄を覚える。それは夢野久作の「ドグラ・マグラ」を読んだ時のようでもある。

 あまりの潔癖症であった彼は納得できないことには折り合いをつけることをしない。そのために二人の人を殺めることになる。自分が納得しないことには絶対意思を曲げないという性格が彼の短所として現れた結果だという。自己弁護に自分を美化しようとして書いているのではないだろうかと、時々考えるのだが、ひたすら罪について真剣に向き合っている記述を読むにつれ、自分を美化していると受け取られないように極力配慮していることが読み取れる。それは彼の潔癖症がこのような記述を生んでいるのだと納得する。無期の判決で罪を償うために刑に服している自分を客観的に見つめ、償うことそして命の大切さを考えている。
 そして彼は、仮釈放されても塀の外には出るつもりはないという。
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 私自身の取り返しのつかない誤謬を考える時には必ず陰鬱な気分になりますが、自分が能動的に行ったことですから、責任はしつかりと感じなければなりません。人の命を奪ったのだから責任について考察することは義務だという観念ではなくて、少しでも真っ当な人間として残りの人生を過ごすために積極的に自らの非を悔い、真摯に反省と贖罪に励みたいという気持ちが生じました。人生というジグソーパズルのピースが欠けてもいい、なんとか最後まで残りのピースを欠けてもいい、何とか最後まで残りのピースを嵌めていきたいという思いです。
 人を殺めた以上、完全に善だという人生はありませんが、できるぎりぎりのところまで誠意を尽していきたいと決めました。なぜそうかんがえるようになったのか、お話したいと思います。

(略)

 いろいろと考えた末に、社会へは戻らないこと、出所したら将来得られないであろう諸々のベネフィットを放棄することを決めました。これで整合性が保たれているとは言いませんが、私の目的を達成し、父に報いることを償いや贖罪ということを勘案するとなんとか両方の目的を遂行するにはこの方法しかないと思えたからです。
 社会へ出て償いをするというのは、どうであれ詭弁です。そこには自分の都合に合わせた解釈や思考の欺瞞、浅さを垣間見ることができます。如何なる見解であろうと、自己の欲望や感情の為に生命を奪った人には社会での自由を与えてはいけません。
 「人を殺すことはどういうことか」美達大和著 新潮社刊
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 彼は服役で得たことがあると語りだす。その文章にはある種の美学が存在している。
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 それに今回の服役で得たことがあります。
 私は社会では、経済的にどんなに豊であっても、どれだけ好き放題の生活をしていても、「幸福」などという感情がありませんでした。次から次に目標を定め、クリアすればまた次にという繰り返しでした。相当に贅沢な暮らしも経験し、毎日がシャンパン・ゴールドに輝くような暮らしをしていました。(略)
 休みたい、サボリたいというのは罪と教えられてきたこともあります。今もこの感覚は私にしっかり沁みついていますし、死ぬまで変わることはありません。男が幸福を感じること、その言葉を口に出すことに女々しさを想起していましたから、想像したこともありませんでした。
 それが、ここでは幸福を感じてしまったのです。
「人を殺すことはどういうことか」美達大和著 新潮社刊
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 幸福の意味とはなんだろうか。彼が感じた幸福を知りたければこの本を読むことをお勧めする。彼はこの本を書くことで自分を評価して欲しいという下世話なレベルにいないことは読んでいて分る。

 規範の対称を刑に求めることは実に難しいものである。


今日は そんなとこです。



では。


中森慶滋
posted by keijin at 12:33| Comment(1) | TrackBack(0) | 日記
この記事へのコメント
江東区の猟奇殺人事件は死刑にしてほしかった。死体損壊や遺棄を量刑に勘案せずと言うが、意図的に死刑を避ける裁判官や人権論者は死んだ人の人権はゼロと考えてるのであろう。もしそうなら、死者を、葬儀をしたり、それなりの方法で埋葬する必要はないことにならないか。
Posted by てとらぽっと at 2011年04月29日 17:26
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